学長メッセージ

学長メッセージ

希望は欺かない
わたしたちは知っているのです。苦難は忍耐を、忍耐は練達を、練達は希望を生むということを。希望はわたしたちを欺くことはありません。わたしたちに与えられた聖霊によって、神の愛がわたしたちの心に注がれているからです(ローマの信徒への手紙5章3節から5節)  

ローマの信徒への手紙を書いたと言われているパウロは、キリスト教の初期にあって、キリストの教えを述べ伝え、その基礎を築いた人物です。彼は、絶えず迫害にさらされ、命の危機に直面していました。また、現在のように、飛行機や車等の交通手段がない時代にあって、時には暑い日差しにさらされますが、遮る木々もなく、また急激に冷え込む気候の中で、パウロの移動は、過酷を極めました。さらに各地での伝道は、決して成功したとは言えないと思います。しかし、彼は、希望を捨てようとはしなかった。 現代においても、言葉を失うことに、私たちはしばしば直面します。私は、東日本大震災の発生後まもなく、被災地を訪問して、その被害の大きさに言葉を失いました。今まであったはずの家がなく、土台が見えるだけ。

市川 一宏

学長 市川 一宏
そこには、大切な家族、友人、そして思い出の詰まったいくつものものがあったはずです。それが2011 年3月11日に押し寄せてきた津波によって、根こそぎ奪われていきました。かつてあった家を見ながら、また一緒に過ごした子どもや孫が通っていた幼稚園や学校を見ながら、呆然と立ち尽くしていたたくさんの方々を私は見てきました。その後ろ姿を、私は忘れることができません。
    石巻市社会福祉協議会は、震災によって職員や家族を失った職員もおられましたが、発災後すぐに災害ボランティアセンターを立ち上げ、全国から来られるたくさんのボランティアを受け入れました。その窓口に、本学を創ったルーテル教会や本学の卒業生が立ちました。また、社会福祉協議会は地域福祉コーディネーターを雇用し、日々、家屋や家族を失った方々が住まわれている仮設住宅を訪問し、その方々が孤立しないように皆が集まるサロンを開いたり、相談を受けたり、必要なサービスや援助につなげていきました。魚や野菜がおいしく、天候も穏やかな石巻ですが、冬の寒さは非常に厳しい。道路の雪が固まり、氷となる上を移動して訪問する。私も何度も経験していますが、風が強く、体温が奪われ、凍えるような日もあります。しかし、そのような日でも、仮設住宅や新たに建てられた(復興)住宅を訪問し続ける。そして、社会福祉協議会や地域福祉コーディネーターの働き、民生委員児童委員、ボランティア、町会等のコミュニティを再建しようとする地道な歩みが、被災者の方々を今も支えている。私は、明日を目指して、被災地で生まれた「希望の働き」と共に歩みたい。しかし、すべての希望がかなえられるわけではありません。「希望はわたしたちを欺くことはありません」と聖書に書かれていますが、希望通りにいかないことは、たくさんあります。ふりかえって、私は、被災地の方々と歩む過程で、こう思いました。見通せない将来に向かって歩むこと、すなわち今の生き方によって過去の事実は変わりません。しかし、今の生き方によって、過去の意味が変わってくる。今の生き方を通して、過去の意味を変えていく可能性があることを。
     平昌オリンピックで羽生結弦さんは、フィギアスケートで世界の頂点に立ちました。しかし、頂点を目指す選手は、日本だけでも数千人いたと言われています。では、勝者は1人ですが、その他の人は、敗者なのでしょうか。すべての人が、フィギュアに対する希望を失ったのでしょうか。私は、違うと思います。オリンピックを目指した人それぞれには、新たな希望がある。希望は欺かない。そして、それぞれの心に、神様の豊かな愛が注がれることを祈ります。その事実を大切に私たち教職員は皆さんとともに歩みたい。
2018年4月1日
学長 市川一宏
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